|| freudig / CIPHER's side
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「…もしかして嫌だったのか?」 そう訊いてくる奴の表情は情けないといったらない。 奴は俺のベッドに座り、壁に背をもたせかけて俯いている。隣に座る俺を、眉を下げたまま上目づかいで見る様子はまるで飼い主に置いていかれた子犬だ。勇ましく戦場を駆ける“片翼の妖精”はどこへ行ったのやら。酔った勢いとはいえ、有無を言わせず俺を抱いたくせに今更「嫌だったのか」はないだろう。俺が怒っていると感じたのか、 「悪かったよ」 奴はきまり悪そうに視線を逸らして頭を掻く。お前は子供か、まったく。 俺が何も答えずにいると、奴は足元の薄い毛布を手繰り寄せて所在なく弄ぶ。その仕草がますます子供っぽく見えて、俺はこみ上げてきた笑いを押さえるのに必死になった。噛んだ唇が痛い。 「なあ…何か言ってくれよ、相棒」 この空気に居たたまれなくなったのか、奴が呟いた。黙っていてもよかったのだが、いつまでも無言で通すのも大人気ない。何か言えというのなら…応えてやろうじゃないか、リクエストしたのはお前だからな。 俺は奴の耳元に口を近づける。こうでもしないと俺は他人に言葉を伝えられない。耳に息が吹きかかる距離だが、この場合は仕方ないというより計算のうちだ。 「ラリー 良かったぜ 巧いんだな」 奴はぎょっとして俺を見た。想像どおりのリアクションだ、俺は口端を上げてニッと笑ってやる。 俺に“した”行為を考えれば、少しくらいからかってもまだ余りがあるだろう。TACネームではなく本名を呼んだのも勿論故意だ、みるみるうちに奴の顔が耳まで真っ赤になる。 「相棒…それ、本気で言ってるのか?」 目を見開いて、間の抜けた表情のまま奴が訊いてくる。だったら何だ?と眉を片方だけ上げて俺は奴を見返した。今言ったことは半分冗談、半分…といったところだ。まあ、奴がどういう意味に取ろうと俺は構わないが。 すると、奴はよほど嬉しかったのか顔をくしゃくしゃにして笑った。いや嬉しいというより照れ笑いか、こいつが本当にあのピクシーなのかだんだん疑わしくなってきた。何なんだ、この普段とのギャップは。 ああ、こいつの今の顔をクロウの奴らが見たら何と言うかな。あの3番機の小僧は腹を抱えて大笑いするに違いない。 「…お前ってやつは!」 言うや否や、満面の笑みで奴が抱きついてきた。勢いがついてそのままベッドに倒れこむ。 奴は耳元で嬉しい、と囁く。何度も。こういう類の言葉は多用すると効果が薄れると思うんだがな。 俺に対して奴がどんな感情を抱いているのか何となく想像はつく。嫌われていないのはどうやら確実のようだ、ならば、いい。何も問題はない。 もし奴が再度身体を求めてきたとしても、別に構わないと思っている。気持ちの良いことは嫌いじゃない。 他人の体温を傍に感じて寝るのは悪くないものだ。たとえ同性であっても。 少しクセのかかった奴の髪を撫でつつ、俺は目を閉じた。 ------------------- あああやっちまった! 本当はもっとドライなピクシーなのに…! |