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|| Leidenschaft
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一瞬、頭の中が真っ白になる。 「…はぁっ」 一度大きく息を吐くと、射精の快感が身体を駆けた。 瞼を開けば、目の前に相棒の滑らかな背中。俺よりも少し色が白く、あまり傷らしい傷もないその肌がしっとりと汗ばんで荒い呼吸に肩を上下させているさまはいつもながら艶かしい。骨格や筋肉等の身体つきで男性だと分かっていても、どこか性別を越えた妖艶さを感じてしまう。上気した肌なら、尚更。 今日は俺も相棒も、どこか妙に昂っていた。普段なら俺から誘うのが常だ、しかし今夜はどちらからともなく唇を重ねていたような気がする。雇い主の首都を開放したことからくる達成感がそうさせていたのか、それとも振る舞われたワインのせいか、行為も普段に比べてかなり激しいものだった。加減も何もなく互いに快楽を貪り合うような、ただ本能の欲するままに任せたセックスだ。…とはいえ、相棒はやはり正常位を許してくれなかったのだが。 ほんの少し身体を離す。繋がっていた部分が自然と擦れ、息を詰めた相棒はとシーツを握り締める。ずる、という粘着質な音を立てて俺の性器が引き抜かれ、繋がりを失った相棒の身体がどさりとシーツに沈んだ。こんなにも疲弊しきった相棒を見るのは初めてだった、いくらなんでもやりすぎたか―さすがに心配になる。 「相棒…おい、大丈夫か?」 宥めるように相棒の髪を撫でる。クセのある俺の髪質とは違うストレートな髪。さらりと流れるそれは、角度によっては銀色に光って綺麗なことこの上ない。そうだ、こいつは“綺麗”なんだ―今まで相棒に対して感じてきたものが簡単に表現できる言葉が見つかったことで、成程、と俺の中で妙に納得した感があった。相棒の体調を気遣っている最中にもかかわらずだ、自分の下心に情けなさが湧いてくる。 俺の問いかけにうっすらと目を開く相棒。と思うと、わずかに首を捻って俺を見上げてきた。 思わずどきりとする。その仕草にも、瞳にも。 硬直して(というか魅入られて)動けない俺をよしとしたのか、相棒は少しだけ口元を緩めるとゆっくり身体を捻りながら上半身を起こして俺と向き合う形になった。息はまだ荒い。額に汗で張り付いた前髪が今日の行為の激しさを物語っているようで、俺はさらに気恥ずかしくなる。 相棒は身体を起こしている間も俺から目を逸らそうとはしなかった。逸らさない、というかむしろ俺の目をずっと見つめたままだ。以前身体を繋げたとき、これはただの癖なんだと相棒は言っていたが見られる方はたまったもんじゃない。お前の魅惑的な瞳に見つめられたらその気がなくても靡いてしまいそうじゃないか、自分の行動が相手に与える影響をもう少し考えてほしい。 すると突然、首筋に指が触れる。そのままぐいと引き寄せられ、耳元に囁かれた。 「Noch einmal bitte」 「―Bitte?」 唐突に飛び込んできた言葉は、久しく使うことのなかった母国語―ベルカ語。その言葉と、意味する内容に思わず俺もベルカ語で聞き返す。相棒はしてやったり、と言わんばかりの表情で笑っていた。 どんどん自分の顔が熱くなっていくのを感じる。相棒はときたま、聞き返すのも憚られるようなとんでもないことをさらりと言ってのけては俺を困らせるのだが、それが計算済みの行動ではなくて素であるから余計に頭が痛くなる。しかし今回に限っては“狙って”いたのだと思わざるを得ない。相棒はわざわざベルカ語を使って尋ねてきたのだ、「もう一度やらないか」と。 相棒は俺がベルカ出身であることを知っている。加えて相棒はゲベートの出だ、俺たちがベルカ語で会話できるのは当然のことだがしかし…何てことを言ってくれるんだお前は、まったく。 さも面白そうにくくっと喉を鳴らして笑っている相棒を、俺は溜息混じりに見つめ返す。 「お前、本当に大丈夫か?」 「何がだ 俺は自分の感情に従っただけだが」 「あのなぁ…」 「公用語でもう一度言おうか」 「いや、遠慮しとく」 「そう言うと思った 可愛いな ラリー」 「ばっ…お、お前なあ!」 空の上ならともかく、ベッドでもこいつに主導権を握られていると思うと何とも情けなくなる。たぶん、今の俺の顔は耳まで真っ赤になっているはずだ。俺はどうにも、相棒の「言い方」に過剰反応してしまうらしい。それがまた相棒の悪戯心をくすぐっているようで俺にとっては悪循環だ。 「でも そうだな 少し休んでからでも」 良いような気もする―そう言うと、相棒はくずおれるように俺にもたれ掛かってきた。後ろ手をつき損ねた俺は背中からベッドに倒れこむ。相棒の全体重を受け止めるかたちになり、う、と思わず呻いた。 胸の上でもそりと顔を上げた相棒は「俺が女だったら今のひとことで冷めてるぜ」と半ば呆れたように笑いかけてきた。対して俺は「今のは仕方ないだろ」と相棒の額を軽く小突いて返す。 ------------------- 続かないなあ… この後の展開はご想像にお任せします 前回の煙草小話に繋げるもよし |